ジェフティ 約束
 アスベリアはなるだけゆっくりと体を起こし、顔を上げてナーテ公の脂肪に埋もれた小さな瞳を見返した。
 上目使いに顔を上げたアスベリアを見て、ナーテ公の体にまとわりついていた女たちは、お互いになにやら耳打ちし始め、くすくすと綿のような笑い声を上げる。中にはやおら顔を赤らめ、ショールで顔を隠すものもいた。
 アスベリアの瞳に、鉱物の金と琥珀の滑らかな光りが宿り、前髪の隙間からちらりちらりと輝いている。その美しさと端正な顔立ちに、女たちは主人の存在を一瞬で忘れたようだ。

「巫女姫は、我が軍の指揮下にて幽閉されております。ご安心召されませ」
 エドに任せておけば間違いなどない。アスベリアはさらに言葉を続けた。
「我が軍には、物見遊山に巫女姫を見物しようと思うような不届き者はおりません。巫女姫はザムラス国王陛下への大切な賜物でございます。それとも……、ナーテ様はいまや国王陛下の物である巫女姫に御用でもおありか?」
 ナーテ公はアスベリアの放った侮蔑を含んだ言葉には気づきもしなかったのだろう。それよりも、周囲の女たちのくすくす笑いの方が、自分への侮蔑が含まれていることに気がいっている。女たちが小声でしきりにアスベリアの容姿を誉めそやしているのが、耳に入ってきたのだ。
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