ジェフティ 約束
「ラルフ!今のうちだ、早く!」
 シェシルがラルフの名を呼ぶ。ラルフは口の中いっぱいに溜まった唾を飲み込むと、意を決して廊下へと飛び出した。
 シェシルが男と組み合っている。ひじで男の剣の握り手を壁に押さえつけ、もう一方の手でナイフを深々と甲冑の隙間へ押し込んだ体勢だ。
 男の苦悶に満ち、見開かれた瞳が真っ赤に血走っていた。
「早く!」
 ナイフをねじるようにして引き抜いたとき、血の飛まつが、脇をすり抜けようとしたラルフの額にぽたりと落ちた。途端にその男の体が揺れ、壁の明かり取りの窓にぶち当たり、ガラスが割れる凄まじい音と共に、階段下へと転がり落ちていく。ラルフは一瞬ぼうっとなって、物言わぬ塊となった兵士の末路を見つめた。
「ぐずぐずするな!」
 ラルフに気がついた兵士が、襟首を掴もうと伸ばした腕を、横から力いっぱいシェシルは蹴り飛ばす。ラルフの目前にまで迫っていたそれは、メキリと背筋が寒くなるような気持ちの悪い音を立てて、あらぬ方向へ曲がった。
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