ジェフティ 約束
「でもシェシル、俺たちには、インサが言うとおり食料が必要だよ。このまま国境地帯を行くつもりなら、戻って食料を買うか、望みを託してコドリス側へ抜けて町か村を探すしかないよ」
 シェシルが危険な色に輝くアメジストの瞳で振り返り、ふっと口元に笑みを浮かべると、インサへと歩み寄った。
「なるほど、お前はここでこいつを消せば、この食料は私たちのものと言いたいんだな。いい考えだ、頭が回るようになったじゃないか、ラルフ」
「ええ!そっ、そんなこと言ってないよ!」
 シェシルの手が、問答無用にインサの襟首を掴んで引き寄せた。
「あ……あぅ……」
 インサは顔を蒼白にして、シェシルの手の内でぶるぶると震えていた。シェシルの空いているほうの手が、腰に下げられたナイフの柄へと伸びる。
「シェシル!」
 ラルフは、今にもナイフを抜こうと力のこもったシェシルの腕に慌てて飛びついた。そんなラルフの顔を覗きこみ、シェシルのアメジストの瞳がふっと緩む。そして短いため息と一緒に――そのお人好しが、その内命取りになるぞ――と呟くと、インサの襟首から手を離して、その手でラルフの頭を叩いた。
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