ジェフティ 約束
 ラルフは岩場をそっと抜け出し、忍び足で野営地のほうへと近づいていく。近づくにつれ、雨音にも増して、川の流れる音が混じりあい聞こえてきた。この音の中では、少しくらい音を立てても男たちには聞こえないだろう。ラルフは足を速めながら、どんどんと近づき、ついには繋がれた馬のすぐそばの草むらの影まで来てそこに身を潜めた。
「……で、……しょうか?」
 ラルフはもれ聞こえてきた男の声に思わず頭を低くする。
「うむ、……殿下の仰せになる通りだろう。我らは少数で………」
 地を這うように低く太い声は、不思議なほどよく響く。ラルフは身を乗り出すようにしてその声に集中した。
「しかし、スヴィテル様。その情報は信用で…………」
「……の筋によると、すでにサンダバトナを出て……ルバーに向かっている」
「オルバーに入る前でなくては、……捕まえられませんね」
 ラルフが集中して耳をそばだててくると、会話はより鮮明に耳に届いてきた。
「そうだな。……ルーベスの巫女は、王弟の住まうオルバーに……れて行かれるだろう」
 ――なんだって!?今、ディルーベスの巫女って聞こえたぞ!
 思わず身を乗り出し草むらをかき分けて近づこうとしたラルフは、中腰のままバランスを崩し川岸へと転げ落ちそうになった。
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