ジェフティ 約束
 歯を食いしばってもどうにもならない。視界がゆっくりと傾いていく。しかし、ラルフの襟首は自然落下の法則に逆らうかのように、急激な力で後方へと引き戻され、さらに口と鼻をふさがれていた。
 あっという間に身動きが取れなくなり、目を見開いて目の前で鼻を鳴らす馬の光る瞳を凝視した。
「……馬鹿か、……お前は」
 耳元でシェシルの押し殺したささやき声がする。
 ラルフは身をよじって自分の頭上を見上げた。そこにはシェシルの感情を押し殺したような表情があった。シェシルはじっと目の前の明かりのほうを見つめている。
「我らの動きは悟られてはおるまい。……の街道で待ち伏せするのが得策だろうな」
 明かりから漏れてくる会話に変化はなかった。シェシルはラルフの口と鼻を覆っていた手のひらから力を抜くと、目だけでラルフにここから離れるぞと合図を送った。
 ラルフもこれ以上ここにいることはできないととっさに判断し、素直に頷いてそっと草むらから身を引く。二人は無言でのろのろと元来た道を這うようにして歩き、インサが眠っている岩場まで戻ってきた。
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