ジェフティ 約束
 男たちが森の中で細い道に馬を置いたまま木の幹にもたれかかって野営を張っている。
 ラルフたちは道から離れ、草むらの中にうずくまり、少しかび臭くなってきた硬いパンをちびちびと口に運んだ。皮袋に汲んだ水も、残り少なくなってきている。いつになったらこの森から出られるのか、心配になってきた。
「……ラルフ。奴ら、明日動くみたいだぞ」
 シェシルの言葉には、少し緊張の色が混じっていた。シェシルは夜の闇にまぎれるように、黒いマントをかぶり男たちの野営地に近づいてきたのだ。紫色の双眸が、フードの奥で輝いている。
「動くって?」
「斥候が戻ってきたんだ。この先にオルバーへ抜ける峠があるらしい。奴らはそこで布陣を敷く。……待ち伏せるつもりだろう」
 シェシルが主語を抜いて話していても、何を待ち伏せるかすぐにわかった。ノベリアの軍隊だ。ラルフの拳が自然と硬く握りこまれ、奥歯をかんで野営をしている男たちのほうへと視線をやる。
 ――ジェイを連れ去ったあの男……。テルテオを焼き討ちにした軍隊を待ち伏せるのか!?
 ラルフは焦る気持ちを身を丸めてじっとすることで押さえ込もうとした。もしかしたらジェイに会えるかもしれない。少ない食料で腹を満たし、ラルフは剣を胸に抱きしめて草むらの中に丸まった。
 今の自分の状況を惨めだとは思わない。この自分の歩む道がジェイに繋がっていることがわかっただけで、かび臭いパンも、重くじっとりと湿ったマントも、汚れた足元も我慢できるのだ。
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