ジェフティ 約束
 アスベリアが、再びノリスと再会するにはそう時間はかからなかった。ベラス上将軍の後押しと、ノリスの推薦があったらしい。アスベリアは小隊長から国王軍の参謀へと出世したのだ。
 アスベリアはしつらえられた重たい毛織のマントに――肩が凝る――と内心毒つき、正装の窮屈な襟元をいじりながら城の騎士団宿舎に足を踏み入れた。扉一つを隔てた内側は、王侯貴族の為の華美な装飾を施された豪華な空間が広がっていた。床に敷かれた毛足の長い毛氈(もうせん)が、汚れ一つ無くどこまでも伸びている。辺りは静まり返り、鳥の囀(さえず)る声だけがかすかに聞こえた。
「まるで、別世界だな……」
 アスベリアは思わずつぶやいた。小隊長だったつい先日までいた部屋の簡素な空間が、今はもう懐かしい。住んでいたときは、男たちの笑い声や剣の稽古に励む気合の雄たけびがうるさくて、元来静かな場所で書物を開いたりするのが好きなアスベリアは、嫌で仕方が無かったというのに。
 そんな静かな廊下の先から、突然大きな声が響き渡り、アスベリアは思わず歩みを止めた。
「アスベリア!」
 それは廊下に面した庭のほうから聞こえてくる。アスベリアはその庭の方へと歩み寄った。
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