ジェフティ 約束
「アスベリア=ベルン」
 男がにやりと笑う。地面に毛皮を敷き、男はその上に胡坐をかいてどっしりと腰を下ろしていた。堂々とした体躯にコドリスの鎧を着込み、地位の高さを惜しげもなくさらけ出している。顔の半分は濃いひげで覆われ表情は読み取れない。しかし、その眼はぎらぎらとした獣のような血なまぐささが、隠すこともなく惜しげもなく現れていた。まだ昼間だというのに、男の前には杯(さかずき)が置かれ、アスベリアの位置まで匂ってくるほど酒臭い。
「オレに何か用か」
 男は満足そうに再び唇をゆがめて笑う。
「ノベリア一の策士と名を聞くアスベリア=ベルンにお会いできて光栄だ。わしの想像していた通りの、ふてぶてしい面構えだな」
 男は杯を手に取り、それを一気にあおった。
「こちらこそ、お褒めいただき光栄だ。名将ボルシェ=サズル将軍」
「今じゃただの飲んだくれだ。戦場にしか居場所のない老いぼれだから、こんなところで油を売っておる。ベルンよ、旨い酒さえあれば男は強くなる。そう思わんか?」
 サズルは豪快に笑い、酒臭い息を吐きだした。
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