貴方に愛を捧げましょう


葉玖の手を自分の手も重ねて首へ掛けたまま、ゆっくりと上半身を起こした。

黄金色の頭を見下ろす形になり、床に膝をつき顔を上げない彼の表情は、もちろん見えない。

しかも、反応が無い。

という事は……。


「まさか、この頼みも契約違反?」

「ええ……。主の命を、私が絶つ事は赦されません」


何故か顔を俯けたまま、彼は密やかにそう言った。

それを聞いて、あたしは冷めた眼差しを落とす。


「そう。あなたの契約って、制約が多い…──」

「ですが、そのような問題ではありません」


そこで彼が顔を上げた。

あたしを見上げる美しい顔に、哀しみの色を浮かべて。

透明の一滴(ひとしずく)が、白い頬をすぅっと伝って。

静かに、涙を流す。


「何故、その様な事を仰るのです」


……嘘でしょ。

どうして泣いてるの?

分からない……彼が、解らない。

理解、出来ない。


「その言葉を聞くの、二度目ね……」


彼の反応に対する言葉が出なくて、そんな事しか言えない。

思わず呆然としてしまい、首に掛けさせた彼の手を押さえる自身の手を、無意識に離す。

重力に従って落ちる手を、あたしの首から離れた彼の手が、両手でそっと握り込んだ。

そこから彼の温もりが伝わってくる。


「何故……」


彼は再び顔を俯け、そっと呟く。

その声は、明らかに哀しみに満ちている。


これは……演技? あたしを騙そうとしてる?

でも、そんな事をして彼に何の特があるの?

主を殺す行為が契約違反になるなら、あたしが彼に殺される事を諦めた時点で、何も問題はないはず。

契約違反をしなければ、彼の身体は自由に動くんだから。

だったら涙を流す必要なんて無い。

なら、どうして? 何か目的があるの?


あたしには、解らない。


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