貴方に愛を捧げましょう


ただ…──


「顔を上げて」


もう、理由なんてどうでもいい。

追求しようと思えば思うだけ、疲れる。

ただ……これは嫌だ。

これだけは……。


「あたし、泣いてる人って……苦手なの。だから、泣かないでよ」


そこで葉玖が、そろりと顔を上げる。

その透き通りそうな白い頬には、涙の流れた跡が月明かりに照らされ、キラキラと輝いていて。

潤んだ蜂蜜色の瞳の端には、再び涙として流れようと待ち受ける、小さな水溜まりが出来ていた。

掴まれていない方の手を伸ばし、指先でその涙の予備軍を拭い取る。


「……泣かないで。これは、命令、だから」

「──…はい」


黄玉のような瞳であたしを見上げる彼は、真摯な様子でこくりと頷いた。

再び涙を流すことは無さそうだけど、その名残が長い睫毛に付いていて、まるで真珠のように光っている。

それさえも見るのが嫌で、再びその綺麗な顔に手を伸ばした。


「目を閉じて」

「はい」


言われた通り従順に目を閉じた彼のそこへ手をやり、濡れた睫毛から、涙を乱雑に拭い取る。

いいわ、と合図した声に瞼を開いた彼は、数回しぱしぱと瞬きをして。

ふと目を伏せたと思ったら、こちらの様子を窺いながら、彼の涙に濡れたあたしの手をとった。

そして何故か、そっと持ったあたしの手に顔を近付けていく。

彼の黄金色の髪があたって、くすぐったい。


「申し訳ありません」


──…なんて、ぼんやり思っていたら。

指先に付いた彼の涙を、彼の舌がペロリと舐め取った。


その瞬間、不意にピアスホールをあけた時の事を思い出した。

あの時は気が立ってて──確か、彼に平手打ちしたんだっけ。

ああ……だから、あたしの様子を窺ってたんだ。

突然の行為に呆然としながらも、思わず言葉が洩れる。


「あなた……変なとこ動物的ね」


申し訳なさそうに微笑む彼に対して、あたしは不思議と嫌悪を感じてはいなかった。


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