貴方に愛を捧げましょう


そこで、ふと思い出す。

彼が涙を流した原因について──自分が発した言葉を。

言っておくべきか言うまいか迷ったけど、やっぱり言っておこう。

この件にはもう触れてほしくないし。


「あと……さっきの言葉は、聞かなかったことにして」


遠回しな言い方をしたけど、彼はちゃんと分かってくれたらしい。

一瞬、目を丸くして戸惑った様子だったけれど、すぐにふっと柔らかな表情に変わる。


「貴女が、そう仰るのなら」


蜂蜜色の瞳がこちらを見上げ、蕩けそうなほどに甘い声があたしの耳奥にジンと響いた。

あたしが彼の事をどう思っていようと、その恐ろしいほどに美しい姿に惹かれるのは、何も変わりないらしい。


その瞳と声に惹き付けられないように、彼から視線を逸らす。

ついでに、そっと握り込まれていた手を引き抜いて。

その手をそのまま耳元に持っていき、付けっぱなしだったピアスを全て外した。

彼の視線を感じながら。


そうしてしばらく沈黙が続いた。

その沈黙を先に破ったのは、彼の方。


「一つ、伺っても宜しいでしょうか」

「……なに」


外したピアスをベッドヘッドに置きながら、生返事を返す。

そんな態度のあたしに気を悪くする様子もなく、彼は話を続けた。


「貴女は、ご病気なのですか…?」

「……さぁ、知らない」


彼が何の事を聞いてきたのかは分かる。

夕方、あたしが気を失った事について言っている、ということを。


「そんな事を聞いてどうするの」

「貴女の事が、心配なのです」


また、だ。

またそんな事を言って……一体、何を考えてるの。

あなたの本当の意図は何?


「大変苦しそうにされて……見ている私まで辛くなる程のご様子でした」


苛々するから、心配する“フリ”なんてしないで。

せっかく落ち着いてきたところなのに。

さっさと話を終わらせて眠りたい。


「ただの過呼吸よ」


それは“嘘”でも“本当”でもない。

自分でもよく分かっていない事なのに、それを彼に言う必要なんてある?

……答えは決まりきってる。


だから、それ以上は何も話さなかった。


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