貴方に愛を捧げましょう
朝起きると──何故か、薄いタオルケットを被っていた。
もちろん、そんなものを掛けた覚えはない。
……夢遊病じゃなければね。
「おはようございます」
「……」
起き抜けでぼんやりしたまま起き上がると、案の定すぐ傍から彼の声がして、その方向を力無く睨んだ。
勝手な事しないでって言いたいけど……言う気力が出ない。
取り敢えず、汗を流してしまいたい。
その後、しっかりお風呂に入って家を出たから──当然、学校には遅刻した。
教室に着いたのはちょうど休憩時間。
席に着くと、いつもの如く彼が早々に話し掛けてきた。
「おはよ! つっても、もう昼前だけど」
その声の主に素っ気ない眼差しを送る。
転校初日、話し掛けてきた“堀江”って人を。
「望月さんって、しょっちゅう遅刻して来るよね。まぁ俺も遅刻常習犯だから、人のこと言えねーけど」
アーモンド型の目は軽く細められ、唇に緩くカーブを描く彼は。
警戒心剥き出しのあたしに対し、その顔に人懐っこそうな笑みを浮かべて。
転校初日から今日まで、彼は顔を合わせる度に話し掛けてくる。
他には誰も話し掛けてこないのに。
「話し掛けないでって言ってるでしょ」
「なんで?」
「煩いのは嫌い、疲れるから」
それに──あなたみたいな人は嫌いだから。
もう、何度同じ事を繰り返したんだろう。
同じ事を何度言っても、彼はあたしを放っておいてくれない。
どうやらこの学校の人気者らしい彼は、文字通り皆から慕われ、彼の元には自然と人が集まってくる。
そんな人があたしなんかを構うなんて、可笑しな話だ。
彼は、偽善者としてあたしに話し掛けたいだけ、きっとそう。
「そんなの、寂しいじゃん」
「あたしは一人でいるのが好きなの。皆がみんな、同じ考えとは限らないでしょう。他の皆と同じ枠に嵌めようとするのはやめて」
「……そんなふうには、思ってない」
「……」
そこで毎回、この話し合いが終わる。
彼はいつも、形容し難い複雑な眼差しを向けてくる。
他の人に見せる無邪気な表情じゃなく、創られたものでもない。
創られたものかどうかくらい見分けられる。
だから…──分かってる。
彼のあたしに対するそれは、ただの“偽善”ではないことを。
けれど、あたしは気付かないフリをする。