貴方に愛を捧げましょう
自分だけが不幸だなんて甘ったれた考えは、生憎持ち合わせていない。
そんな自惚れた考え方をする人は大嫌い。
それが例え、自分でも。
──その日の放課後。
さっさと帰宅しようと教室を出たあたしは、数人の女子達に裏庭へ呼び出された。
……というより、教室から引っ張り出された、と言う方が正しいかも。
裏庭に着くと、校舎の壁を背に数人の女子達に囲まれる。
あたしは彼女達に冷めた視線を向けながら、気だるげに口を開いた。
「……なに」
「何で呼ばれたか分かってるくせに」
「堀江くんに近付かないでよ」
わざわざこんな場所まであたしを連れてきたかと思えば……。
なんなの、その呆れた理由。
あと数日で夏休みだというのに、この人達の行動は理解不能だ。
夏休みになったら、必然的に会うこともないのに。
そんなことも分からないの?
「近付いてない、向こうが勝手に話しかけてくるのよ。見てて分からない?」
あなた達の眼は盲目というより、節穴ね。
ほんと……馬鹿みたい。
堀江という人が話し掛けてくる度に、彼を慕う女子達の敵意の眼差しを感じてはいた。
いずれはこんな状況になるかもしれないだろうな、と。
けれど、それを避けるための行動は起こさなかった。
面倒だし、そこまでする気力があたしには無い。
「──…って、聞いてるの!?」
「……」
雲一つ無い、夕陽の朱に染まる空をぼんやり眺めていたら。
不意に怒鳴り声が響いた。
耳障りなあなた達の文句なんて、聞いてるわけないじゃない。
そう思いながら冷めた視線を彼女達に向けると、その態度が気に触ったらしい。
目の前にいた背の高い女子が──突然、こちらに手を伸ばてあたしの髪を鷲掴んだ。
「──…っ!?」
驚く間も無く、すぐ後ろの壁に後頭部を打ち付けられて。
その衝撃に視界が、ぐらり、と不自然に揺らいだ。
──次の瞬間、突風があたし達を吹き付けた。
目の前の女子達は皆揃って、勢いよく後方へ吹き飛ばされる。
そして鈍くドサリと音を立てて、身体は地面に落ちた。
けれど、あたしだけが例外で。
あたしの身体は、葉玖の腕の中にいた。
その合間に見えた異様な光景。
殺気立つ、黄金色の巨大な狐が、九本の尾をゆらりと揺らした。