貴方に愛を捧げましょう


「封印された後、数十年は何処か暗い室内に入れられ、檻の中で過ごしました」


窓の外を眺めながら、静閑な語りに耳を傾けた。

あたしに話し掛ける時とは違う、淡々とした語り口。


「そして……最初の主に封印を解かれ、その後は見世物小屋で約三十年を過ごしました」

「みせもの、小屋?」


聞いたことの無い意味の分からない言葉に、思わず彼の方へ顔を向けた。


「何をする所? あなたは何をしていたの」

「珍しいものを見せ、披露する場所です。人間ではない……異形の姿で、私はそこに入っておりました」

「ふーん……。つまり、物珍しさに興味を惹かれる人達の晒し者されていたってわけね」


彼は目を伏せ、あたしを見ずに静かに頷いた。

まるで、これ以上は何も聞かないでほしいと言わんばかりに。

でも、あたしはやめなかった。


「それが、最初ね」

「ええ……」

「……次は?」


その瞬間、あたしは見逃さなかった。

“次”を尋ねたあたしの言葉に、彼の肩が微かにびくりと跳ねた事に。


でも、そんな事はどうでもいい。

いちいち次の話を催促させないでほしい。

彼が昔の自身の事を話したがらない理由は気になるけど、きっと、話を聞いていくうちに分かるだろう。

そう思って、余り気にしない事にした。


「次、は……」


そこで顔を上げた彼の瞳は憂いを帯び、明らかに話を聞いてほしくない様子でいて。

それでも、あたしは目を逸らさなかった。

そうすると彼は諦めた様子で、重苦しげに口を開いた。


「遊廓(ゆうかく)に……居りました」

「遊廓?」

「その一画を仕切る主に、封印を解かれたのです」

「そう……」


それなら知ってる。

以前、確か本で読んだことがあったはず。

その本の内容はもちろんフィクションだけど、そこで語られていた言葉の意味までは、偽っていないはず。

じゃあ、本当の昔は違ったってこと?


「確かそこには、男を相手する“女”がいたんでしょう?」


確か、花魁とか夜鷹とかって言ったっけ。


「あなたの事は一応……男だと思ってたんだけど、違った?」

「ええ、私は人間ではありませんが、男です。ですが、趣味趣向はそれぞれですし、それに私は……この様な容姿ですので」


確かに、顔立ちは中性的で、綺麗すぎるくらいだ。

儚げで妖艶で、彼がその気になれば簡単に人間を騙せるだろう。

初めて彼の姿を見た時、確かに戸惑ったのを憶えてる。


声を聞かなければ、彼が男だという確信がもてなかったくらいに。


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