闇夜に笑まひの風花を
私は注意書きを見ることもなく、前の頁を送って目的の頁を開く。
びっしりと黄色く変色した紙を覆い尽くすのは、特殊文字。
それはひどく難しくて、習いはしたものの読むのは苦手だ。
けれど、叶えたい望みがあるから、頑張れる。
ナノ、ナノ……。
バラバラに砕けそうな心を抱えて、私はその本を読み解く。
一頁を読むだけで、丸一日もかかった。
何度も同じところを繰り返し読み、振り返って頭に叩き込んでいく。
不眠不休の日が、何日続いたか。
やっと最後の頁に辿り着いた。
そして、書かれている文字の最後まで読み尽くした。
『……なんで……?』
読み終えて、私が零したのは戸惑いだった。
最後まで読んだ。
いくら頁を捲っても、それ以降にはただの一文字も書かれていない。
全くの白紙が数頁続いているだけだ。
けれど。
終わっていない。
私は他の禁術と比べてみる。
……やっぱりおかしい。
禁術と呼ばれる幾つかの術も、陣や呪、その形から発音まで、全部記載されている。
準備するものも、以前これを行った者の末路も。
しかし、禁術の本の最後の項、死者の蘇生だけは異なった。
その重要であるはずの陣や呪の表記の直前で、特殊文字は途切れている。
あとに続くのは、黄色く濁った白紙ばかりだ。
火で炙り出してもみた。
炙り出しの術もかけてみた。
けれど、ただの一文字も浮き出てくることはなかった。
『どうしてよ!!』
古い、本。
綴じる紐が今にも切れそうな本。
それを、激情のままに机に叩きつける。
強く噛んだ唇。
口内に血の味が広がった。
叩きつけた本は紐が切れてバラバラになることはなかったが、誤って指の腹を切ってしまった。
こんな古ぼけた紙にまで殺傷力はあるのか、と余計に苦々しく感じる。
じわりと滲む血。
些細な痛みは意識の外にあった。
わずかな出血は気にも留めないで、その指で頁を捲ろうとする。
血で本が汚れても今更だと思った。
それくらい、禁術の本は古くて破けていて、汚れていた。
けれど、頁を捲ろうとして、私は目を瞠る。
血の汚れが、消え失せた。
そして代わりに、浮かび上がる言葉。
たった数文の、特殊文字。
『始祖リルフィの血を継ぐ者よ。これより先は、口伝のみの継承とする。決して悪用されるようなことがあってはならないからだ。
この術は大いなる罪を生む。伝えて続けても、使われないことを切に願う』
私はその文字を音読した。
ゆっくりと読み上げると、文字は紙に吸い込まれるように消えていく。
放心したままの私に残されたのは、変色したただの白紙だけだった。