闇夜に笑まひの風花を
『__アンジェ』

いつからそこに居たのか。
声に振り返ると、影に紛れて佇む人影。

『……お父様……』

私はへらりと笑った。
もう笑う力なんて残っていないのに。

『そんな状態で、禁術を行うつもりか?しかも、最悪の、死者の蘇生を』

お父様の声は静かだった。
夜のように深くて、静閑な声音。

お父様はゆっくりと近づいてくる。
わずかな月明かりに照らされた表情は、悲しそうだった。

『お父様、ナノが死んだんです。お葬式にも行ってきました』

食事も睡眠もろくに摂っていないから、声はひどく弱々しかった。
お父様は、足を止める。
私との距離はおよそ十歩ほど。

『認めれるならもう分かっているだろう?
お前の友達はもう居ない。二度と会えない』

きっぱりとした、言葉。
それが本当であることを知っていながらも、私は足掻く。

まだ、私は認めていないから、と。

『いいえ、お父様。ナノは約束したんです。私を忘れない、と。忘れないと言ったのに、死んでしまうなんて、おかしいじゃありませんか』

死ぬことは忘れること。
死ぬことは白紙に戻すということだから。

忘れないためには、生きていなくてはいけない。
ナノは、生きていなくてはいけない。

『だから、禁術を作ったのか』

『はい』

お父様の眉間に皺が寄せられる。
眉尻が、下がって。
なんだか泣きそうだと、思った。

『その代価が、お前の命と引き換えだと知っているのか?』

その台詞に、私は笑顔を返す。

『はい』

月明かりが、私の背中を映し出す。
逆光になって、表情はお父様には見えないだろう。

『お前が死んだら、友達にも会えないんだぞ?』

だから、私が注意するのは声が震えないようにすることだけ。

『知っていますわ、お父様。
でも、忘れない、と約束したのはナノです。私は、ナノが忘れないでいてくれて、もう一度あの笑顔を見ることができたら、死んでも構いません』

本当はもっと傍に居たかったけれど、私の命を対価にするしかないのならば、仕方がない。
ナノが死んでしまうより、私が死んだ方がましだ。

だって、死んでしまえば、きっとずっと傍に居られるから。
ナノが生きていれば、あの笑顔を見られるから。
会えないけれど、私がナノを見れないよりは遥かにましだ。

何かを諦めたような、重い溜息が月明かりだけの部屋に零れる。
それは、お父様の口から吐き出されたものだった。

『分かった。
お前が死んだら、私がお前を蘇らせよう。幸いにもお前が術式を完成させてくれたからな』

そう言って、悲しそうに笑うお父様。
その表情を、じっと見つめた。

おとうさまが、わたしを……?

お父様のお命と引き換えに、私を?

『ではアンジェ、約束だ。
私はお前を蘇らせる。お前は、私を蘇らせるな。
良いな?』
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