闇夜に笑まひの風花を

『__嫌っ!』

それは悲鳴だった。
ちゃんと言葉になったのかさえ、あやしい。

だから、私はお父様のところに走って力一杯抱き着き、もう一度叫んだ。

『嫌です!!』

わけの分からないまま、涙が溢れた。
カタカタと小刻みな身体の震えを抑えるため、お父様に抱き着く腕に力を込めた。

お父様が、私の所為で生命を捨てるだなんて、そんなことは嫌だった。

お父様は私を引き離して、しゃがみ込む。
私を覗き込んだ瞳は、悲しみと怒りが混ざり合っているようだった。

『どうして?お前が私たちにしようとしたことだぞ?』

優しいはずの諭すようなお父様の声が恐くて、お父様の目から逃れるように、私はお父様の胸に抱き着いた。

『いやです!お父さま……そんなことしないで……っ』

また、ナノのときのような思いをするのは嫌だった。
まるで、身体の一部をもぎ取られたような。
心に大きな穴が開いたかのような。
あんな苦しさは。

もう味わいたくないから、この命をナノの代わりにしようとしたのに……。

『アンジェ、よく考えてみなさい。これがお前が私たちにしようとしたことだぞ。
お前が死んでしまったら、私はどうしたら良い?
蘇らせたお前の友達は、生き返ってみてアンジェが自分の代わりに死んだと聞かされたら、どうすれば良い?』

触れ合った身体から伝わる振動。
お父様の声は、ひどく悲しそうだった。

__ああそうか、とそこでやっと得心した。

ナノが死んで感じたことは、私が死んでお母様やお父様やナノたちが感じることと同じなのだ、と。

ナノの死によってハルカさまが泣いたように。
私が死ぬことで、お母様やお父様があんな苦しい思いをするのかと思うと、悲しかった。

『わあああ……』

ごめんなさい、と何度も謝った。
私がしようとしていたことが、どれほど酷いことか、分かってしまったから。
お父様たちを、どれほど悲しませたか分かってしまったから。

『ごめっなさ……おとうさ、ま……うっく、ごめ、さ……おかあ、さま……ごめ……っ』

お父様の胸の中で泣き続ける私を、お父様は大きな手で何度も撫でてくれた。
頭を、髪を、背を。
温かい、大きな手だった。

服からは、お母様と同じ匂いがした。

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