闇夜に笑まひの風花を
『私は、人間だったの。人間として、生きていたの。
でも大切な人が死んじゃって、私は生き返らせた。いけないことだと分かっていても、諦められなかった』
いけないことだと分かっていても。
それは、私と一緒だ。
同じことを思って、同じことをしようとした。
でも、私には止めてくれる人が居た。
彼女には、居なかったのだろうか。
『私は、見捨てられたの。当然ね。私はもう、人間ではないから』
誰に、とは彼女は言わなかった。
彼女を見捨てたのが誰か、彼女を閉じ込めたのが誰か。
彼女は何も語らなかった。
特定できるようなものではないと、分かった。
そして、私の興味を引いたのは、その次の言葉。
『人間じゃなかったら、なに?』
彼女は、私たちと何一つ変わらないように見えるのに。
人間だった、と彼女は言った。
過去形で。
今は違う、と明確に示していた。
けれど、彼女の答えはとても曖昧だった。
『さあ、なにかしら』
それがはぐらかされたようで、私はムッとする。
彼女は構わず、私の膨れた頬に指を滑らせた。
『人は私を崇めるけれど、私はそんな人ではないわ』
崇められるなんて凄いことだろうに。
彼女の瞳には哀しみしかない。
『死者の蘇生をすると、人間じゃなくなるの?』
死んでも死ねないような存在になるのだろうか。
こんな寂しい世界でただ一人、住まなければいけないのだろうか。
『そうよ。人間の枠からはみ出すの。
あなたは、そうなりたい?』
『嫌よ!私は人間が良い!
強くて優しい、人間のままが良い!』
答えは反射だった。
寂しそうな瞳が気になったけれど、人間ではなくなるなんて、嫌だった。
否、本当は怖かったのだ。
自分がわけの分からないものになることが、どうなってしまうのか分からないことが、怖かったのだ。
怯えて怖気づいて。
そうして、私は叫んだ。
彼女は笑う。
愛おしそうに、寂しそうに。
瞳は私を見つめていた。
否、生きている人間を、見つめていた。
『人間は脆いわ。とても弱くて、儚くて。でも、一生懸命に足掻くの。自分の足で最期まで生きようと、足掻くの。
それが、人間よ』
あなたは、それで良いのね?
それは、確認。
私に答えは決まっていた。
意志を持って、彼女を見返す。
呑み込まれないように。
そして、誓う。
ここから帰るために。
『良いわ。こんな、わけの分からないところに閉じ込められて、ただ時が流れるのを見てるだけなんて耐えられない。
私は生きるのよ。最期まで自分の足で歩いてみせる。誰にも任せない。足掻くのが人間らしいなら、みっともなくてもそうしてやるの』
だって、私は人間だもの。
言い切った私を、彼女は少し寂しそうな、羨ましそうな微笑で見つめていた。