闇夜に笑まひの風花を
けれど、彼女は首を横に振った。
柔らかい声音がゆっくりと諭す。

『いいえ。あなたはここには居られない。帰らないといけないから』

『どうして?』

死者の蘇生をしないと、私はここに居られないのだろうか。

『アンジェ、あなたは死者の蘇生をしようとした。でも、しなかった。
それは、どうして?』

『私がナノを蘇らせても、誰も喜ばないから。お父様とお母様が悲しくなるから』

さっきみたいに、泣くのだろう。
二人で寄り添って泣くのだろう。
もしかしたら、どっちが私の蘇生をするかで口論になるかもしれない。
さっきみたいに。

お母様とお父様とは、お仕事が忙しくてあまり会えなかった。
けれど、それでも愛してもらえていることが分かったから。
きっと、これは自惚れではない。

それに、きっとハルカさまも泣いてくれる。
ずっと傍に居たんだもの。
ナノのときみたいに、きっと。

ハルカさまのお傍で、ハルカさまを支えてあげなさい。

蘇る両親の言葉。
__ああ本当に、私はなんてバカなことをしようとしていたんだろう。
私がハルカさまを、支えてあげなくてはいけなかったのに。

『あなたがここに居ても、ご両親は悲しむわよ?』

その言葉に、連想されるものは。

『死んじゃうの?』

私は急に不安になった。

『そうね、もう会えなくなる。
会えなくなって、ずっとここで見ることしかできなくなって、あなたの大切な人たちが死ぬところを、たくさん見ないといけなくなる』

死ぬことが、どんなに悲しいことか、知ってしまった。

それをたくさん見ないといけないなんて。
心がどんなに穴だらけになることだろう。

『それが、罪……?』

あんなに苦しいことを、何度も見るなんて。
思い当たるのは、本に浮き出て来た言葉。

けれど、彼女が浮かべたのは哀しい微笑。
そのときの瞳の色が何なのか、私は知らなかった。

そこに瞳はあるのに、まるで眼窩のような……ぽっかりとした、穴が。
覆われる、色。

『いいえ。これは罰。
悪いことをした、代償よ』

それが絶望だと知った頃には、もう記憶をなくしていた。

『死者の蘇生は悪いことなの?』

どうしても結びつかない二つ。
確かに、誰も喜ばないけれど。

『そうよ、とっても悪いこと。天命を弄るんだから。魂に傷がついちゃうくらい。神様にも、赦してもらえないくらい』

彼女は笑っているのに。
微笑みを浮かべているのに。
空虚な、彼女。
どこまでも、ぽっかりとした、器。

『人を殺すことよりも、もっと悪いことよ』

そう言って彼女は、私の髪を梳いた。
愛おしいものを見るような表情で。
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