その瞳で見つめて~恋心~【完】
そして、静かな部屋で黙々と手を動かしている最中、保健室の後の一件をふと脳裏に浮かぶ。


──『進藤君はどうして、あたしのことが好きなんだろう』。


あたし、進藤君とあまり話したことがなかったよね。
なのに、進藤君はなんで、あたしのことを好きになったんだろう。


と考えながら、用紙をとじ込み続けた。


「あ。水嶋さんじゃん」

「あ……。蓮夜君」

彼が教室の前を通りかかった瞬間、誰だったかを思い出せなかった。

だが、声を聞いた途端に合コンのときに出逢ったことを今さら判明した。


「進藤と仲直りしたんだって?」

「う、うん」


蓮夜君は室内に入って、あたしの席の前に立つ。

その妙に近い距離に、硬直して歯切れも悪くなる。


近いけど、何もされないよね……?


強引な印象はないが、念のために疑ってはいた。


「おめでとう」

「え?」

彼の口から出てきた言葉が意外で、体の緊張が解けて素っ頓狂な声を出してしまった。


「どうかしたか?」

「あっ……。この前、付き合わないかって言われたから、てっきり」

「あー、それ? 気にしないで。俺は進藤とのほうがお似合いだって思って、進藤を触発しただけ」

「そうなんだ……。ありがとう」

「いいや。マジに気にすんなって」

蓮夜君はそう言って笑ってみせると、別れを告げて教室を後にした。


蓮夜君って、優しいんだな……。


あたしのことを応援してくれたことだって知ると、胸が暖かくなった。
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