光~彼との夏物語~

時間旅行


「翡翠」

あたしを呼ぶ声がしてあたしは目を開けた。
目の前には由香莉がいた。

「もー、翡翠いつまで寝てるの?もう10時だよー?」
そう言って由香莉が笑う。
あたしは安堵の息をはくと身体を起こした。

暗闇は嫌いだ。
抑えようのない恐怖があたしを襲い、孤独に怯えてしまうから。

それにしても変な夢だった。
鮮明でどこか懐かしくて誰かの記憶のような、そんな夢。
あの男の子の声が途切れて、しばらくして身体の痛みが消えたのはなんだったんだろう。
千鶴は病気だったのか、それとも何か大怪我でもしたのかあの夢では分からなかった。
痛みが消えたということは千鶴は死んでしまったということ?

時代的に医療が発達していて治療を受け病気か怪我が治ったというわけでもないだろう。
あたしは布団に寝ていて病院にいたわけでもなかったのだから。

まぁ所詮夢だ。
なにがあってもおかしくない。
布団の上でも治療を受けられるのかもしれないし、いきなり治ってしまったのかもしれない。

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