大切なもの
「俺は――…」
「――……バカ」

樹の声が聞こえたと思ったら、耳を塞がれた。

そのおかげで、颯太の声は遮断された。

ただ、頬を赤く染めた亜弥ちゃんの顔が、ひどく目に印象強く映ってしまう。

そして2人は、私たちの目から見えなくなっていった……。

樹の手がゆっくりと耳から離される。

「……沙和」
「いつっ…きっ…」

――…限界だった。
ずっと我慢していた涙が、一気に溢れだす。

「ごめん…。俺がもっと早く来てたら。
忘れものなんてしなければ…」
「樹のせいじゃ…ない」

私が動けなかったのが…いけないの。

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