私は猫
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隣ですやすやと眠る京。私は京の長い前髪を指でかきわけた。
いつもの憎たらしさは消えて、ちょっとだけ可愛く見える。
あれから私は京に抱かれた。
思い出しただけでまた熱くなってくる…。
でも、これでよかったのか分からないよ。
「なにしてんのさ日向」
じっと顔を覗き込んでいると、京と目が合った。
「起こしてごめん」
「いいよ、こっちおいで」
そう言って京は私を抱き寄せて、自分の腕を枕にしてくれた。
「日向じゃなきゃイヤだよ」
京は私の髪を指に絡めて遊びはじめた。
私は自分が何に迷い何を悩んでいるのかも分からなかった。
「あ…」
南さんのこと。
「どうしたの」
京が眉をひそめる。
「ううん、何でもない」
私は被りを振った。
なぜだか、京には知られてほしくなかった。
「…高3のとき」
京が話しだした。
「日向に振られてさ、1ヶ月くらいかな…かなり引きずったんだ」
ぱっと顔を上げる。京の真面目な目にぶつかった。
「受験勉強はしたよ。でも楽しくなかった。今日まではね」
「どうして」
「大学入ってからは余計に分からなかった。自分のしたいことやってるのに、どこか空っぽでさ…やっと分かったんだ」
京は私を引き寄せて向き合わせた。
「日向がいないからだったんだ」
「…京」
私は京から目が離せなかった。それ以上聞きたくないのと、そうでないのとで、頭のなかがごちゃごちゃしていた。
「日向はずっとここにいるつもり」
「分からない…そういうことは」
「僕が日向を幸せにする」
京ははっきりとそう言った。