私は猫



「大学を出て何年か病院に勤めたら、父親の病院を継ぐ。一緒に病院で働いてほしい」



「でも私そんな…病院なんか勤められないし、それに」



「今から資格の勉強すればいいじゃない。看護師なら専門もあるし、医療事務も」



「待ってよ京…!」



私は京の胸に顔を埋めた。



「今の私じゃ何もできないって…」



「え…」



京は狼狽えて、怪訝な表情になった。



「私は家出してここにいるの。お店の人に助けてもらってる。ホステスでお客様の相手をするのに…恋なんて私は両立できない」



「日向」



「私も京といるとすごく安心するし、楽しいよ。でも」



南さんのことが頭から離れないでいる私。



昔の居場所の心地よさに甘えたがっている私。



「日向、誰か好きな人いるの」



「……なんで」



もうまっすぐ京の顔が見れなかった。



「そっか。…なんか勘違いしていたよ」



「京、私好きな人なんて!」



「言ってないって言いたいの。でも僕のことも好きじゃないでしょ」



「京のこと…好きっ」



別れた時から押し殺していた感情が溢れてきた。



もう押さえることができない。



京が私の上に跨ってきて、ゆっくり顔を近付けた。



「僕も好きだよ、日向」



唇が重なり、とろけるような感覚が全身に伝わっていく。



「ごめんね。日向のことも考えないとね」



京が私の耳元でしゃべった。



「ゆっくり考えよう。日向の状況も、いい方向に変えてみせるから」



ちゅっ、と頬にキスして京は離れていった。



…やだ。



私はついに泣きだしてしまった。



< 48 / 53 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop