私は猫
「大学を出て何年か病院に勤めたら、父親の病院を継ぐ。一緒に病院で働いてほしい」
「でも私そんな…病院なんか勤められないし、それに」
「今から資格の勉強すればいいじゃない。看護師なら専門もあるし、医療事務も」
「待ってよ京…!」
私は京の胸に顔を埋めた。
「今の私じゃ何もできないって…」
「え…」
京は狼狽えて、怪訝な表情になった。
「私は家出してここにいるの。お店の人に助けてもらってる。ホステスでお客様の相手をするのに…恋なんて私は両立できない」
「日向」
「私も京といるとすごく安心するし、楽しいよ。でも」
南さんのことが頭から離れないでいる私。
昔の居場所の心地よさに甘えたがっている私。
「日向、誰か好きな人いるの」
「……なんで」
もうまっすぐ京の顔が見れなかった。
「そっか。…なんか勘違いしていたよ」
「京、私好きな人なんて!」
「言ってないって言いたいの。でも僕のことも好きじゃないでしょ」
「京のこと…好きっ」
別れた時から押し殺していた感情が溢れてきた。
もう押さえることができない。
京が私の上に跨ってきて、ゆっくり顔を近付けた。
「僕も好きだよ、日向」
唇が重なり、とろけるような感覚が全身に伝わっていく。
「ごめんね。日向のことも考えないとね」
京が私の耳元でしゃべった。
「ゆっくり考えよう。日向の状況も、いい方向に変えてみせるから」
ちゅっ、と頬にキスして京は離れていった。
…やだ。
私はついに泣きだしてしまった。