Mary's Boy Child ―お父さんとお母さんはねこになった―



「昔のお父さんとお母さんはいつも、ああやって笑っていたのかな?」

 
「シアワセそう」おれ達の羞恥を余所に、仙太郎は嬉々溢れた顔で一笑。

コホンと咳を零して、「ぼくも嬉しいな」ああやってお父さんとお母さんが笑ってくれていると本当に嬉しい、小さく目尻を下げる。

おれ達の邪魔をしないよう、後を追う息子の背を見上げておれと頼子は耳を垂らした。


そうも多大に褒められると、本当に恥ずかしいのだけれど。


でも、確かにあの頃のおれ達はシアワセそうだな。

今のおれ達もシアワセな筈なのだけれど、何故だろう…、あの頃のおれ達ほどではないような気がした。

妻を持ち、家庭を持ち、子にも恵まれたというのに。


「真樹夫さんは結婚を考えたことはありますか?」


不意に若かりし頼子が、同じく若かりしおれに質問を飛ばした。


軽く目を見開くおれはすぐに柔和に綻んで、「ありますよ」肯定してみせる。

頼子に同じ質問をぶつけるおれは完全に、彼女を意識しているようだ。傍から見てもモロ分かり。


質問返しされた彼女は頷きつつも、軽く微苦笑を零して吐露する。


「周囲の友人達は次々に結婚していますし、考える日も度々。ですけれど、結婚すると仕事をやめなければいけませんから。今の仕事、好きなんですよ」

「接客の仕事をされていますよね。保険会社に勤めてらっしゃるだけあって、お話し上手ですし」

「ふふっ。接客していくうちに、そのお客様と仲良くなれたりするのが楽しかったりするんですよ」


今の仕事はやめたくない。

彼女の仕事に対する熱意に、若いおれは少し思案した後、「だったらやめなければいいんです」と笑っていた。


その仕事を選び、それを生き甲斐としているなら、やめなければいい。


結婚してもやめなければいいんだと、ハッキリ告げていた。

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