春、恋。夢桜。
「な、なんじゃと……?」


わしは、びっくりして紅姫様を見た。

花の精ではなかったのなら、わしは一体何じゃったと言うのじゃ?


状況も何もかもがよくわからなくなって

わしはもう、紅姫様の言葉を待つしかなくなった。


「麗華。あなたはもともと……、人間だったのです」


真剣な、まっすぐな瞳で、紅姫様が言った。


「にん、げ……ん、?」

「はい。そうは言っても、遠い遠い昔の話なんですけどね」


紅姫様の表情は、何かを懐かしむような、憐れむような、淋しげなものだった。


「昔……、とな?どういうことなのじゃ?」

「それは、これから全てお話致しましょう。ただし、これだけはわかっていてほしいのです」


紅姫様は、そう言い放った。


そして、その瞬間、紅姫様をそれまで包んでいたふわりとした空気が、一気に散った。
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