【短編】message
僕らは少し涼しくなるのを待って、ミナのいる場所に向かった。

今朝の予報では最高30℃だったから、それでも25℃くらいはあるかもしれない。


「美奈ちゃん。こんにちは。」

僕はいつもの電柱のあたりに話しかけた。
最期のとき、ここに彼女は横たわっていたのだろうか。
そんな考えが頭の中をふとよぎる。

「隣にいるのはおにいちゃんの友達だから、怖がらなくていいよ。」

『うん。』

『お兄ちゃん。ミナ・・・大事なものなのに思い出せないの。』

「ゆっくり、順を追って思い出そうね。」

独り言を繰り返す僕を、祐介が不思議そうに見つめる。

『ミナ、すごく急いでたの。暗くなったのにまだお外にいたから怒られると思って。』

うん、うん、と相槌を打ちながら、僕はミナの『声』に耳を傾け続けた。

『どうしても、お姉ちゃんに見せたいものがあったのに。急に目の前が真っ暗になって、気がついたらここに立ってた。』

「で、彼女はなんて言ってるんだ?」

横から祐介が入り込む。

「お姉ちゃんに見せたいものがあったんだそうだ。それが大事なものらしい。」

「浅井真美か・・・。」

「真美ってのがお姉ちゃんなのか?」

それはミナの姉のことを知っていそうな口ぶりだった。

『お姉ちゃん・・・。』

「ミナちゃんのお姉ちゃんは真美ちゃん?」

『お姉ちゃん・・・。』

ミナは泣き出していた。

「祐介、お前のせいで女の子を泣かせちまった。」

「泣いてるのか?困ったな。」

僕らは顔を見合わせて、今日は引き上げることにした。
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