春待つ花のように
　ノアルは別荘の中に馬車を入れると、ゼクスの指示に従って小屋にしまった。そして彼の案内されるまま、建物の中に入っていった。

　初めて建物の中に入るノアル。いつも建物を外から眺めているだけだった。灰色の外観はとても冷たい雰囲気で、それは建物の中に入っても同じことだった。

　ここに人が住んでいるのか疑問に思ってしまうほど、ひんやりした空気が漂っている。噂ではここにレイの婚約者がいるということだが、本当にそうなのだろうか。疑ってしまう。

「ゼクス、昨日読んでいた本は何処にしまってあるのかしら？　探しても見つからないの…」

　建物の中央にある階段から下に降りながら女性が話しかけてきた。白いドレスを身に纏い、大きな瞳に長い髪が印象的だった。

　女性はノアルと目が合うと、階段の途中で足を止めてしまう。ゼクスも女性とノアルを交互に見ると、慌てて女性のほうへ走りだした。

「マリナ様、早くお部屋へお戻りください」

　ゼクスは階段を駆け上がると、彼女の背中を押して２階にあがっていった。

（マリナ…）

　ノアルは女性の顔を思い出しながら、名前を心の中で呼んでみた。とても可愛らしい女性だった。

　ドレスを着ているし、この別荘のメイドではなさそうだ。あの女性がレイの婚約者なのだろうか。
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