春待つ花のように
「朝早くから申し訳ありません。馬車をお返しにあがりました」

「馬車?」

 ゼクスは迷惑そうな声をあげながら、ノアルの後ろにある馬車を見る。そこには見覚えのある馬車があった。

「なぜ、庭師のあなたが…?」

 不思議そうな声をあげるゼクス。この馬車について報告を聞いていないのだろうか。

「詳しい事情は私にもよくわからないのですが…」

 ノアルは困った表情をした。ジェンが酔っ払って寝ていたために、持ってきた本人から状況を聞いていない。

 ただ持ち主に心当たりがあって、困っていたら悪いと思い、すぐに持ってきたのだ。理由を聞かれることまで考えていなかった。

「とにかく中にお入りください」

 ゼクスは門を開ける。

 ノアルはスラムの出身だが、毎日ここの庭の手入れをしている人間だ。別荘に入って犯罪を犯そうとか考える人ではないと知っている。

 それにどう見てもこの馬車はレイが別荘に置いている馬車だ。昨日、レイが城に帰るのに使用していったものがなぜここにあるのか不思議だった。レイが無事に城に到着した旨の文は昨日の夕方に届いていた。

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