春待つ花のように
 1階からは酔っ払った男たちの笑い声が聞こえてくる。ローラとイブが店に立ち、昼は定食を出し、夜は酒屋として切り盛りをしている。

 夜になればスラムに住んでいる男たちが疲れを癒しに毎晩飲みに来ていた。スラムの夜はとても賑やかだ。
 
 貴族のように派手なパーティや会合を開いているわけではない。ただ集まれる人々が集まり、寄り添っているだけ。それだけでも明日への力となる。

 今日は頑張った。明日もさらに頑張ろう、そういう気持ちにさせてくれた。

「ここにいたのか…。忙しいのに誰も手伝いに来ないってイブが怒ってるぜ」
 2回、ドアをノックするとクリスがノアルの部屋に入ってきた。ベットに座って窓の外を眺めていたノアルは、窓を閉めるとクリスの方に向き直った。

「ジェンは?」

「警備の仕事。俺もさっき帰ってきたきたばかり…なんだが、イブに怒られた」

「店を手伝えって?」

「そう! どうして女はこうも人遣いが荒いかね。はっきり言って俺らの方が仕事量が多いと思わねえ? 睡眠時間だって…」

「でも、逆らえないんだろ?」

「ふう…まあね。どうしてかな、イブには逆らえないんだよ」

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