春待つ花のように
「…どうしてだろうな」

 ノアルは口元を緩めながら笑うと立ち上がった。椅子の背もたれにかけてあっ
た上着を手に取ると、棚の上に置いてあるランプの火を消した。

「あ! その顔は俺が逆らえない理由を知っているちっくだな」

「さあな。俺にはわからないよ」

 クリスと一緒に部屋を出ると、ノアルは静かにドアを閉める。そして手に持っている上着を羽織りながら階段を下りていった。







「きゃあぁぁ!」

 女性の悲鳴と共に、花の手入れをしているノアルの横で何かが割れるような音がした。恐る恐る自分の横を見てみるノアル。

 ピンクの花と土の他に茶色の器のようなものが割れて散らばっていた。

 これは…植木鉢?

 ノアルは身震いを一回すると、ゆっくりと後ろを振り返ってさらに上を見上げた。別荘の2階の窓が全開に開いている。窓からいくつかの植木鉢が見えていた。

 あそこに置いてあった一つが自分の隣に落ちてきたということなのだろうか。もう一度、落ちて割れている植木鉢を見ると、ノアルは生唾を飲み込んだ。

 少しでもずれていたら、自分の脳天に落ちていたかもしれない。そう思うと全身に冷や汗をかいた。
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