春待つ花のように
「王子の婚約者です」

 カインの言葉にローラは大きく瞳を開ける。

 スラムの仲間は皆家族同然。そう、ノアルは話していた。

 だからスラムに生活している人でないと思っていたが、レイの婚約者だったとは想像もしていなかった。

「それじゃ、役人に追われるね」

「はい…」

「カインさん、話してくれてありがとう。なんだかすっきりした」

 ローラは鼻皺を寄せて微笑む。

 ノアルには誰か他に好きな人がいる。そう感じていたのは事実。それが誰かまでは知らなかった。

 あの時は、『尊敬』と『好き』の区別がよくわからなかった。ノアルのことは尊敬している。

 彼のように精神的に強い人間になりたいと思っている。何が起きても大きな心で受け止められるような人になりたいと常々思っていた。それが『尊敬』。

 ただ相手と一緒にいたい。肌の温もりを感じていたい。傍にいて相手のために何かしてあげたい。

 そう思うのが『好き』。そう感じるのはただ一人。

 ローラはカインのことを見つめた。

「何か?」

「ううん。何でもない」

 カインは不思議そうな顔をすると首をかしげた。
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