春待つ花のように
「ごめんなさい。お怪我、ありませんでしたか?」

 食堂の窓を開けて女性が声をかけてきた。植木鉢を落とした張本人なのだろうか。女性は走ってここまできたらしく、肩を大きく動かして息をしていた。

「ええ」

 ノアルは立ち上がって振り返ると女性がいる窓の前まで近づいた。

「本当にごめんなさい」

 女性は申し訳なさそうな顔をすると再度、深々と頭をさげた。

「マリナ様…でしたよね? 頭を上げてください。私は怪我をしていませんから」

「どうして私の名前を?」

 マリナは顔を上げると、驚いた顔になった。今日は薄い黄色のドレスを身に纏っている彼女。あの大きな瞳を、ノアルは忘れることはなかった。

「一度、お見かけしたときにゼクス様がそう呼んでいたので…」

 彼女の名前を呼んではいけなかったのだろうか。マリナの表情を見ていると、そんな気持ちになった。
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