春待つ花のように
「あ、いえ…。覚えていてくださって光栄です」

 マリナと見つめ合うと、彼女の後ろからゼクスが走って近づいてくるのが目の端に映った。

 ノアルは彼女から視線を動かすと、彼の異常な程にこわばっている顔を見つめた。

「マリナ様、一体どうしたのですか!!」

 マリナが来たときよりもゼクスの方が辛そうに呼吸をしている。

 走ってきたのなら仕方がないが、少しは鍛えたほうがいいのでは? そう助言したくなるような呼吸の荒さだった。

「あ…、私が部屋の窓から植木鉢を落としてしまって、下に彼が…」

「え?」

 ゼクスは必要以上に大きな声を出すと、細い目を大きく開けて、窓からノアルのことを見た。

「大丈夫ですか? お怪我は?」

 窓から身を乗り出してゼクスはノアルの全身を舐めるように確認していく。屋敷内で何か起きたら、責任者である彼がレイにでも叱られるのだろうか。

 ノアルはたとえ怪我をしていても、大事にするつもりはない。せっかくここで働かせてもらっているのに、大騒ぎをして職を失うほうが怖い。

 お金を稼げなくなるということは、スラムの子どもたちに服や食事の配給をしてあげることが出来なくなってしまう。
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