春待つ花のように
「今日は裁縫をしておりました。レイの服にあわせられるような手袋を縫ってみました」

「それは出来上がるのがとても楽しみだ」

 レイは笑顔で言うと、マリナにキスをする。瞳を閉じる彼女。

 この風景、外から見れば仲の良い恋人同士に見えるのだろう。ただ体裁を繕っているだけの流れ作業。

 レイがいる間だけ、彼をまるで愛しているかのように振舞う。自分には彼しかいない。

 私だけを見て。空いている時間がすべて私のことを考えて。そうレイに思わせるための、行動。

 レイの頭からノアルのことを忘れさせるための行為。

 自分が、レイに夢中だと思わせれば、きっと彼もノアルのことなど面倒になってくれるはず。

 そう信じて、マリナは愛している振りを続けていた。

 レイが決めたドレスを着て、彼が喜びそうなことをする。とても苦痛だが、ノアルのためを思えば出来ること。
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