春待つ花のように
「怪我はありません。大丈夫ですから。それより植木鉢の予備とかってあります? このままでは、落ちてきた花がかわいそうです」

「探してきます」

 ゼクスは背を向けると、また走って食堂を出て行った。ノアルはホッと息をつくと、マリナにも軽く会釈をして花壇に体を向けた。

 割れた植木鉢を丁寧に除けて、花を取り出す。

「そのお花、また部屋に飾ってもいいかしら?」

 マリナの声が後ろから聞こえてくる。ノアルはそのつもりで、この花を植木鉢に戻そうとしているのだ。彼女が心配することでもない。

「はい。今度は落ちないところに置いてください」

「それはどうかな」

 マリナの答えにノアルの眉間に皺が寄る。彼が振り返るとマリナは両肘をついてノアルのことを見つめていた。

「貴方と話がしたくなったら、落とすかもしれないわね」

 屈託のない笑顔でそう言うマリナ。

『怪我をしたらどうするつもりだ』そう怒鳴りたくなる気持ちをノアルは拳を強く握ることで我慢し、口にはしなかった。
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