春待つ花のように
 ふと顔を上げて窓を見る。ここから見える風景は、つまらない。

 毎日、ノアルの手入れした花を見るのが楽しかった。今は、誰が手入れをしたのかわからない草木を眺めている。

 綺麗で形が揃っていて、傍から見ればきっと美しい情景なのだろう。しかし今の自分には、ノアルが手入れしていない庭など綺麗とは思えなかった。

よくここに来れたものね、女狐さん…」

 豪華な扇子で口元を隠しながら、レイの母親・レティアが入ってきた。

 マリナは本を閉じると、急いで立ち上がった。

『母上には会わせないように計らいをする』

 レイの嘘吐き。マリナは唇をかんだ。

 彼女は、レティアには好かれていない。彼女は、レティアから見れば、ただの奴隷でしかないのだ。

 国と国との間で交わされた条約。そしてその条約が破られないようにするための人質がマリナなのだ。

 そんな女に、自分の大切な息子を獲られてしまった。憎むべき女、マリナ。

「ふふっ。レイに守られていいご身分ね。宮殿に戻ってきたのに、王以外には誰にも挨拶に行かないなんて、失礼だと思わないの?」

 マリナは下を向いて、持っている本をギュッと握り締めた。
< 158 / 266 >

この作品をシェア

pagetop