春待つ花のように
「貴方の名前、聞いてもいい?」

「ノアル」

「『ノアル』…何?」

「ファミリーネームは…ない。忘れた」

「そう。私はマリナ・クルーズ」

 『クルーズ』ノアルは心の中で復唱する。聞いたことのある名前。確か隣の国の王族がそういった名前だった気がする。

 幼いときに聞いた話だったから、うる覚えで自信がない。もしかしたら違うかもしれない。

「どうしたの?」

 考え込んでいたノアルを不思議そうな顔でマリナが見つめていた。彼女はノアルと目が合うと、嬉しそうに微笑む。

「な、何でもありません」

「そんなに畏まらないで。私、話相手が欲しいの」

「話相手?」

「ゼクスには内緒よ。あの人、五月蝿いから…でもゼクスくらいなのよね、この屋敷の中で信用出来そうな人って」

「お茶…くらいなら相手してもいい。ただ次の仕事があるから長居は出来ない」

 ノアルの返事にマリナは嬉しそうに笑った。その笑顔は本当に嬉しそうで、ノアルは彼女に見とれてしまった。
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