春待つ花のように
「ノアル、元気にしてますか?」

「ええ。このお弁当、ノアルに渡しますね」

 カインはお弁当を軽く持ち上げると、笑顔で言う。しかしその言葉にローラの顔は悲しそうになった。

「カインさんがそれで…いいなら…」

 自分は何かいけないことを言ってしまったのだろうか。カインは彼女の表情に動揺する。

 ローラはノアルのことを想っているのでないのか。この前、2人で話をしてお互い関係について話し合ったのではないのか。

 あれから何度か、役人の目を盗んではノアルは店に行っている。それはローラと寄りを戻したと解釈した自分は間違っていたのだろうか。

「ローラさんを傷付けるつもりは…」

「カインさんに食べてもらいたくて作ったんです。服だって、布が手に入ったから作ったわけじゃなくて…カインさんにあげたかったからで…」

 ローラの瞳からは大粒の涙がこぼれてきた。カインは驚きながらも、彼女の肩を抱くと、人気の少ない路地に入った。

 彼女はしばらく泣き続けた。声を出し、カインの胸に顔を押し付けていた。カインはその間中、何も言わずにずっと抱きしめてあげた。
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