春待つ花のように
『この女誰よ。ローラを傷付けないでよね』

 そう彼女の声が聞こえてきそうだ。

 カインはシェリルの横まで来ると、足を止めた。

「シェリル、帰りますよ」

 彼女の腕を掴むと、無理やり立たせるカイン。ズボンのポケットからコインを何枚か掴むとカウンターに置いた。

「これ、今夜のお代です」

「嫌よ! 私はまだ帰らないわ」

 カインの手を振り払うと、シェリルは椅子に座って彼に背を向けた。

「シェリル!」

 低い声でカインは言う。こんな声で名前を呼ばれるなんて初めてだ。彼は怒っている。でも彼の言い成りになるつもりはなかった。

「話があります」

「話ならここですればいいじゃない。私たちがどんな関係なのか、ローラっていう人にも知ってもらったほうがいいんじゃないの?」

 背を向けたまま、シェリルは言う。カインはため息をつくと、イブのことを見る。相変わらず、彼女は怖い顔をして自分のことをにらんでいた。

「彼女はローラじゃありません」

「え?」

 シェリルは一瞬、驚いた顔をするとイブのことを見る。イブは肩をすくめると、ニッコリと笑った。
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