春待つ花のように
「カインに確認してもらってよかった」

 ゼクスは満足そうに微笑むと、カインの肩を叩く。宮殿にいるときにテーラの元で少し仕事をしていたカイン。

 そんなに長い期間一緒に生活をしたわけではないが、身の回りの手伝いをしていたことがある。

 この本だけは忘れない。毎日、大切に扱っていた本だった。誰にも触れさせずに、テーラ自身で管理していた。

「この本がなぜここにあるんです?」

 カインの質問にゼクスはにやりと笑った。

「それはわからない」

 ゼクスの返答に、彼はガクリと肩を落とす。ゼクスに案内されるがまま、この部屋に入り、本の確認をした。

 一体この部屋は誰が使っているというのだろうか。

「ここはマリナ様のお部屋だ」

『マリナ』最近耳にしたことのある名前だ。カインは何処で聞いたのかを思い出すと、ゼクスと目を合わせた。

 彼はカインの次の言葉を待っているのだろうか。ジッと見つめているだけで、何も言ってこなかった。

 カインは下唇を舐めると、本を元の位置に戻して窓のほうを見る。
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