春待つ花のように
「どうした?」

 黙って下を向いてしまったエマにゼクスは立ち上がって、彼女に近づいた。

「…触らないで!」

 エマは自分の前に立ったゼクスの手を振り払うと、数歩後ろに下がった。

「エマ?」

「私に触らないで!」

 彼女はゼクスから離れると、手首を隠した。それを見逃さなかったゼクスは、抵抗する彼女をベッドに押し倒して、隠した手首を見た。

「なんだ、これは」

 ゼクスは彼女の手首を見ると、自分の目を疑った。本当にこれは彼女の手首なのだろうか。エマの顔を見ると、彼女は彼から視線をそらした。

「何だ、と聞いているんだ」

 自殺しようとしたのだろうか。エマの手首には、ナイフで切った傷跡が何本もあった。

「エマ!」
 
 ゼクスが怒鳴ると、彼女はビクッと体を縮めた。

「ゼクスには関係ない! これは私が自分でつけた。それだけのことです」

 エマは、自分の上にいるゼクスをベッドから落とすと、走って彼の部屋を出て行った。














「シャワーを浴びてくるわ。エマ、お茶とお菓子の用意をしておいて」

「かしこまりました」

 レティアは薄い赤のガウンを肩に掛けると、浴室の方へ歩いていった。
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