春待つ花のように
「どうしてこんなところに馬車があるんだ?」

 ノアルの質問に、馬車を取り囲んで立っている人々が振り返る。そして誰もが彼の顔を見て、安心した顔をした。

「ジェンが酔っ払って持って来たんだと」

 馬車の前で足と止めたノアルの肩を叩いて、クリスが声をかける。ノアルはクリスの顔を横目で見るとため息をついた。

 あの酔っ払いが!

 心の中で舌打ちをするノアル。この馬車はどう見たって貴族の…それもそうとう地位の高い家のモノだ。

 こんなものを一体、どうやって持ってきたと言うのだ。そしてこの尻拭いするのは誰だと思っているのか。ノアルは考えるだけで苛々してきた。

「ジェンは?」

 ノアルはクリスの目を見る。彼は肩を竦めると、ノアルが出てきた家の2階を指差した。

「寝ているのか?」

「ぐっすりね」

 気持ちよくね、と顔に書いてクリスは答える。ノアルは怖い顔をして2階の窓を睨む。
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