春待つ花のように
「もうあいつに酒は飲ませるな」

 クリスは苦笑いをすると、『そう伝えておくよ』と片手をヒラヒラと振った。

「これ、どうするの?」

 ローラが寒そうにストールを体に巻きつけてノアルに質問する。

「持ち主に返す。馬車の何処かに手がかりがあるだろう」

 ノアルは馬車の外回りを一周してみる。馬は大人しい。ノアルの動きを目で追うが、威嚇するようなことはしなかった。

 馬車はとても華やかだ。宝石の装飾が凄い。金をかけて作っています、と言わんばかりの外見。こんなものに金をかけて、出かけるのはどんな貴族なのか、ノアルには知りたい気持ちが出てきた。

 その人物を知ってどうなるわけでもないが、興味がある。こんな豪華な馬車に乗って生活をしている人間がどんな奴なのか。

 噴水が中央にある路を一本越えただけで、人々の生活環境が全くかわってしまうこの街。噴水より南側はとても華やかだ。貴族たちの家が豪華に並んでいる。その先には王族が住んでいる宮殿がある。

 噴水より北に行けばいく程、人々の生活水準は下がっていく。スラム街へとなっていく。その終わりは川が教えてくれる。川を越えると、今度は貴族たちの別荘地にかわる。

 一番豪華で目を引くのが、王の息子 レイ・クライシスが所有している別荘だ。そこにはレイの婚約者がいるという噂がある。とても綺麗で賢い女性だと聞くが、噂だけで本当に彼に婚約者がいるかさえも定かではない。
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