春待つ花のように
「これは…」

 馬車の中に乗り込んだノアルが椅子の上に置いてあったネックレスを見つける。そこに小さく刻んであった紋章。それには見覚えがあった。

 ネックレスを元の位置に戻すと、ノアルは馬車から降りた。いつの間にか、馬車のまわりに出来ていた人だかりはなくなっていた。

 そろそろ夜も明ける。スラムの朝は早い。皆、それぞれの生活に戻ったのだろう。

「わかった?」

 ローラが心配そうに声をかける。彼女はノアルの部屋の一つ下の階で生活をしていた。1階ではローラとイブが飲食店を開いている。経営者はノアル。

 ノアルがスラムで家もなく生活しているときに、同じような生活をしている人間たちと出会い、互いに協力し合い土地を手に入れた。1階は飲食店、2階3階は 彼らの生活する部屋として自分たちで建てた。

 ノアルが来る前のスラムは酷かった。子どもたちは生活するため、生き延びるためにやりたい放題。そのまま成人して大人になった人間も結局、この街の社会生活には慣れずに荒れた生活。

 こんな現状を見たノアルは衝撃が走った。このままではいけない。でも何をしたらいいのかわからない。

 まず、自分がしっかりした生活をここでしなければ…そう思い話が合いそうな同年代の子どもたちと手を組み、今の生活まで出来るようになった。
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