春待つ花のように
 下の方にあるシャツとズボンを取り出すと、穴やシミがないかどうかを確認してからそれに手を通した。馬車を返しに行くだけでも、汚い格好では行けない。一応、礼儀というものがある。

 ノアルは着替えると、短髪の髪を手くしで整えて部屋を出て行った。

「お茶くらい飲んでいきな」

 階段を下りてすぐにイブに声をかけられる。店のキッチンに立ち、熱いお湯で紅茶をつくっていた。ショートの短い髪には寝癖の一つも無く、綺麗にセットされているイブ。

 化粧をしていなくても肌が綺麗なのは、毎晩の手入れを怠っていないからか。彼女のサバサバした性格をノアルは気にいっている。

 ローラと違い、女らしい色っぽさというのはないが、本音を隠さずに言える彼女には尊敬している。

「ローラから話を聞いたのか?」

「ジェンのこと? 全く、馬鹿だよ。毎度毎度、問題ばかり作ってくれて…こっちの身にもなって欲しいね」

 手際よく綺麗な色を出している紅茶をティーカップに入れると、カウンターに置く。

 ノアルはカップが置かれた場所の椅子に腰を下ろすと鼻を鳴らして笑った。
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