春待つ花のように
「今度は王族の馬車だよ。同じようなのをレイの別荘で見かけたから、持っていってみる」

 そう言うとノアルはイブの煎れてくれた紅茶に口をつける。葉のいい香りが鼻につく。

「レイの別荘って確か…ノアルが庭の手入れをしているところ?」

 イブは自信なさげに質問をする。ノアルは沢山の仕事を掛け持ちしている。一ヶ月くらい前まで宮殿の花の手入れをしていた。

 その仕事ぶりを気に入った王の息子・レイが自分の別荘の手入れをするように言ってきたのだった。それ以来、宮殿から別荘にかわって、今は一人で別荘の庭の手入れをしていた。

「そう。宮殿では庭師が大勢いて交代制でやっていたけど、今は一人だから…」

「バイト気分ってわけにはいかないね」

「その通り」

 少し冷めてきた紅茶を一気に飲み干すノアル。そんな彼にイブはトーストを差し出した。

「どうせ、馬車を返しに行きながら別荘の仕事もしてくるんだろ? 食べていきなよ」

「ありがと…」










 大きくて重たそうな門を見上げるノアル。門の格子の間から見えるのは冷たい建物。華やかなのは自分が手入れをしている庭だけ。あとは全部、温かみがない。

「庭師がこんな時間に何の用ですか?」

 レイ・クライシスの別荘の管理全てを受け持っている執事のゼクスが門越しに声をかけてきた。ノアルは一度軽く頭を下げると、後ろに止めてある馬車に目を移した。
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