春待つ花のように
「国王だ」

「え?」

 ローラは驚くと足を止めた。それに気づかないノアルの背中がみるみる離れていってしまう。

 追いかけないといけないが、アンジェラとの会話を一から思い出していた。

 ノアルの母親が国王に殺された。しかも薬屋にいた人たちは国王に探されるような人間。『復讐はするな』とノアルが言った。

 これは一体どういうことなのだろうか。ノアルは国王と何か関係のある人間なのだろうか。

 ローラが足を止めて考え込んでいると、ノアルはそれに気づいて戻ってきてくれた。

「ごめん。アンジェラとの会話を聞かせておいて、何も話さないのは反則…だよな」

 ノアルは笑顔で言う。ローラは何も言わずに下を向くと、彼がそっと手を繋いだ。

「10年前に、ロマに父親と妹を殺されたんだ。それだけじゃない、宮殿にいた使用人やメイドたちも沢山死んだ。あの反乱で生き延びたのは母と数人の護衛たちと俺だけだった。俺はあの時、8歳でロマたちを恨んだ。でも違う。現況を作ったのは父で、全ては父がいけなかったこと。沢山の犠牲は出てしまったけど、これで国が良くなるのなら恨んではいけない。もっと大きな人間にならなければ…そう思って彼らから離れて一人で生きていくことを選んだ」

 遠くを見つめながら話すノアル。今でも忘れない、宮殿から逃げるときのことを。

 あの気持ちは絶対に忘れてはいけない。あんな辛い気持ちはもうしたくない。
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