春待つ花のように
「ノアルのお父さんって…もしかして…」

「前国王だ」

と、いうことはノアルは王子だったということになる。ローラは驚きのあまり、腰が抜けそうになった。

 何か過去のある人だと思っていたが、王子だったとは考えもしなかった。

「こんな話をしたのはローラが初めてだ」

 ノアルはすっきりした表情で言う。

 こんな過去、誰にでも話せるものではない。ロマに知られれば、捕らえられて殺されるであろう。

 反乱分子になりえる存在だ。生かしておくわけがない。それに自分は前国王の息子だとわかれば、皆が軽蔑をするだろう。

 国の人々を苦しめてきた人の子ども。仲良くしてくれるはずもない。

「ノアル、今まで苦しかったでしょ?」

 ローラの言葉に、ノアルは微笑んだ。

「平気さ。ローラにも出会えたし、スラムには他の仲間もいる。過去は過去だ。本当なら忘れなきゃいけないんだ。過去を蒸し返してはいけない」

「でも憎しみは消えないんでしょ?」

 ノアルは素直に頷いた。
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