春待つ花のように
「父上は誰に殺された?」

「ロマ様に…」

 隣で走っているシェリルが答える。

「母上は無事か?」

「カインとガーネに任せました」

 母上は生きている。そう思うと少し気が楽になった。いつも歩いている廊下。走っているのに、今はとても長い廊下に感じる。

 外にいた人間たちが屋敷内に入ってきたようだ。扉の開く音と共に下の階で人々の争う音が聞こえてくる。

 男の叫び声に、肉が切れる音。あまりの生々しい音に、恐怖心が目を覚ます。足を止め、耳を塞ぎたくなる。

 長い廊下を走った先に何が待ち受けているのだろうか。ここから逃げることが正しいのか。

 父の仇と叫び、あの大衆の中に身を投げることが正しい決断なのか。

「こんな所に隠し扉?」

 シェリルが急に立ち止まると壁をリズミカルに叩く。するとバネに弾かれたように、扉が開いた。

 中は暗い。ここから見える範囲では、下に下りる階段がしばらく続いているようだ。
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